溢れるホンダらしさ – ホンダ・インサイト

出典:honda.co.jp

ホンダ初のハイブリッド

ホンダ・インサイトと言っても、現行の立派なセダンではなく、1999年発売の初期型インサイトの話。どことなくCR-Xデルソルのような外観の初期型インサイトは、「世界初の量産ハイブリッド自動車」であるトヨタプリウスの発売から遅れること約2年、1999年9月に発売されました。

僕がホンダ販売店にいたのはCAPAが発売された1998年までだったので、その1年後に発売されたクルマということです。未来的なデザインに騙されそうですが、意外と古いクルマでびっくり。

実はこれまで、あまり魅力を感じなかった初期型インサイトですが、何故か今さら面白いクルマであることに気付いてしまいました。勝手に想像すると、世界初ハイブリッド市販車の座をトヨタに奪われたホンダが総力を挙げて開発した、技術と負けん気の結晶が初期型インサイトなのです。

35km/Lという圧倒的な燃費性能

ハイブリッド車を語るときに、初めに出てくるのは燃費性能だと思いますが、初期型インサイトのそれは35.0km/Lで、初期型プリウスの28.0km/Lを大きく上回っています。ちなみにインサイトの35km/Lは5MTの数値ですが、プリウスと同じくAT(CVT)で比較しても32km/Lという圧倒的な燃費性能を誇ります。

この数値には、ハイブリッドのパワーユニットが影響しているのはもちろんですが、初期型インサイトには車体にこそ、「ホンダらしい」テクノロジーがあふれていると思うのです。そのあたりを紹介していきます。

溢れ出す「ホンダらしさ」

クルマ好き、バイク好き、ホンダ好きの間でチョイチョイ出てくる「ホンダらしさ」という謎ワード。ひとそれぞれ百人百用のホンダらしさがあって当然なので、それについて掘り下げるつもりは全くなくて、個人的に初代インサイトからは「負けん気の強さ」そして「手加減のなさ」と言った「ホンダらしさ」を感じます。

1996 JACCS ACCORD – 出典:Honda Collection Hall

2000 Castrol NSX – 出典:Honda Collection Hall

まるで、JGTCのアコードやSuperGTのNSXのような、ルールの範疇でとことんやってしまう手加減のなさ、容赦無さ、言い換えると大人げなさ(良い意味でね)とでも言いましょうか。そんな初期型インサイトの素敵な部分をいくつか紹介します。

アルミモノコックボディ

普通クルマのボディは鉄で作られています。生産性を含めたコストを考えると鉄がベストということでしょう。事故などで多少ひん曲がっても鉄なら曲げ直して修理が出来るメリットもあります。それに対してアルミボディのメリットは軽さです。構造上ねじれ剛性も高くなるでしょう。同社のスーパースポーツNSXがアルミ製なのはわかりますが、初めてのハイブリッドとはいえコンパクトカーであるインサイトまでアルミで作ってしまうとは。最初からたくさん売る気は無かったのでしょうか?

2人乗り

初期型インサイトは2人しか乗れません。想像ですが『統計的に平日は1人、週末は2人というのが使われ方として多い』的なコンセプトなのでしょう。ただでさえ軽量なアルミボディなのに、2人乗りの初期型インサイトは850kgしかありません。これは現代の軽自動車より軽く、同年代のプリウス(1,220kg)の2/3の重量です。ちなみにトランクスペースはちゃんとありますので、2人しか乗れない以外は普通に使えるクルマです。

空力

2シーターにすることで、運転席から後ろを縦横共に絞り込んで空気抵抗を減少させています。そのほか、リアホイールスカートの装着、ボディ底面をフラットにするなど、レーシングカーのような思想で作られた本格的な空力ボディです。

ある程度の速度から上は、空気抵抗が燃費に大きく影響するそうで、向かい風の中を自転車で走るときのツラさを思い出すと、そりゃそうだろうなって感じですね。しかし、この時代に、市販車(しかもスポーツカーではない)で、ここまでやってしまう。これもホンダらしさですね。

パワーユニット

ボディまわりの激しさに比べると、初期型インサイトのパワーユニットなんて優しいものです。初代インサイトに搭載された「Honda IMA SYSTEM」は、エンジンが常に回っていて、発進時など必要なときに小型モーターがアシストする仕組み。3気筒1.0リッターのリーンバーンVTECエンジン自体は、そこまで珍しいものではないと思いますが、オイルパンがマグネシウム製というピンポイントでホンダらしさを見せてくれます。

ちなみにクランクシャフトに直結のモーター出力は、10kW程度で、同年代のプリウスと比較しても約1/3。初期のホンダハイブリッドは、あくまでもエンジン主体で、必要なときにモーターがアシストするという考え方でした。近年のホンダハイブリッドが、モーターメインに変わっているのを考えると、そこだけを見るとトヨタ型のほうが正解だったいうことでしょう。

その後のインサイト

20年ほど経過した今になって、プリウスに乗っている元ホンダマンに絶賛されている初期型インサイトですが、2006年まで生産されました。このユニークなクルマが7年間も販売され続けたのは意外ですね。ちなみに生産台数は1万7020台(wikipedia)だそうで、さすがにたくさん売れるものではなかったようです。

2009年 ホンダ・インサイト (2代目) – 出典:honda.co.jp

その後、2009年に発表された2代目インサイトは、初代のような奇抜さは無く、2代目プリウスのような5ドアで登場。プリウスを意識した設計/販売戦略で逆襲を狙ったものの、返り討ちにあったという印象。

僕もプリウスを買う際に、この2代目をちょっとだけ調べましたが、トヨタに比べると製品としてのツメの甘さが目立つようですね。まあ、そのあたりもホンダらしさなんですが…。2代目のインサイトもエンジンがメイン+モーターでアシストという仕組みは変わりません。

2018年 ホンダ・インサイト (3代目) – 出典:honda.co.jp

そして、2018年に3代目が登場しました。初代と2代目のボディサイズは国内市場を意識していたような5ナンバーサイズでしたが、3代目は3ナンバーの中型セダンに生まれ変わりました。プラットホームを共用していると思われる(たぶん)シビックの大型化に伴ったものでしょうが、インサイトの場合は、もはや違うクルマのような成長っぷりで、「ホンダのハイブリッド車」ということくらいしか共通点がない気がします。ハイブリッドシステムは、モーターがメインで動くタイプです。※2013年のアコードからホンダのハイブリッドもトヨタのようにモーターメインとなりました。

「ホンダらしさ」は消えつつある?

1987 Williams/Honda FW11 – 出典:Gazoo.com

昔を懐かしむあまり「最近の若いもんは」的な話題の中で使われることが多い気がする「ホンダらしさ」ですが、わかりやすいデザインの初代インサイトはともかく、すっかり大人のセダンと化した現行インサイトにも、しっかりと息づいていると思います。最近のクルマの技術的な話は高度過ぎて、理解するのにある程度の知識が必要なのもあると思うのですが、燃費や環境性能に対しても、各メーカー毎にアプローチが異なっていて、実に面白いものです。ただし、昔のような「やんちゃさ」は薄れているのは事実かもしれません。とはいえ、それって世の中全体に共通して言えることじゃないですか?色々な厳しさで、失敗の許されない世の中、初代インサイトのようなコンセプトカー然としたクルマは、研究室の外には出て来れないのかもしれません。

ちなみに本日(2020/6/22)時点で、カーセンサーに登録されている初期インサイトの中古車は全国で7台。本体価格25〜89万円です。さすがにコンディションは良くはなさそうですが、買うなら早いうちから網張っておきましょう!

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